仲介業者抜きの不動産取引

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 不動産の売買などにつき 「必ず仲介業者を通さなければいけない」 という法律はありません。

 一般的に不動産は高額で、リンゴやみかんを買う (現実売買) のとは異なり、いろいろな面で注意を払わないといけません。

 不動産取引を経済的にみると、売主は売買代金が入れば、所期の目的を達成したことになります。一方、買主は売買代金を支払っても、これに見合った不動産とは言い切れません。一般的に買主は売主より注意が必要です。

 そもそも売主は真実所有者なのか、売買代金は適切か、登記や登記に現れない障害となる権利はないのか、境界のトラブルは抱えていないか、など、注意点は多岐にわたります。税務面の検討はもちろんのことです。

 不動産取引は、現在でも 「現金同時決済」 が原則です。 通常、司法書士の立会のもと、残代金の支払と移転登記に必要な書類の交付を同時に履行します。 代金支払を登記をより先にすることは、当事者間の約束としては有効ですが、トラブルのもとです。

 不動産を二重に譲渡されると、原則、先に契約・売買代金支払を行っていても、登記が遅れれば、先に登記をした者との関係では、反射的に所有権を失ってしまう恐れがあります (対抗問題)。

10年振りの不動産オンライン申請

 不動産登記法の改正により、所有権登記名義人の住所等に変更があった場合、その変更登記をすることが、今後義務化されるのに伴い、10年ぶりに住所変更登記をオンラインで行いました。

 初めて不動産オンライン申請をしたのが(2005年)平成17年11月28日でした、当初はフルオンライン申請で、極めて概念的、非現実的な代物でした。その後、添付書面情報の郵送等が認められ、どうにか普及に至っています。現在でも電子化された公的な証明書等はごく一部にとどまり、現行制度の下では、申請書情報をオンライン申請し、添付書面情報は郵送等をする形が今後も続き、フルオンライン申請は極めて限定的と考えます。

 さて、この10年間で何か大きく変わったかといえば、これといった変更点はありませんでした。オンライン申請開始時の申請マニュアル等は複雑怪奇で、一般の方ではほぼ理解困難だったと思われますが、さすがに20年近く経過し、多少ユーザーフレンドリーな内容になっています。

 ところで現在でも、PDFファイルにマイナンバーカードで電子署名をする際、一企業である Adobe社 の Adobe Acrobat を使用する仕様になっています。ネットで調べたところ、Adobe Acrobat によらずマイナンバーカードで電子署名ができるソフトを無料提供しているサイトががありました。無料の Acrobat Reader で電子署名を検証する(下の図)方法も丁寧に紹介されています。奇特な方がいらっしゃるものです。「JPKI PDF SIGNER」 で検索してみてください。

 オンライン申請が完了すると、「登記完了証」なるものがオンラインで提供されます。これには、官職電子証明書(標題下の図)が付されており、オンライン申請システムで検証することが出来ます。

登記名義人は真実所有者か

 不動産登記は権利の変動を登記するもので、権利の所在を直接登記するものではありません。

 甲の所有する不動産について、偽造書類により乙名義に所有権移転登記がなされ、その登記を信頼して丙がこの不動産を買い受けたとしても、丙は登記を信頼したことによってした行為は保護されず、丙は不動産の所有権を取得しません。

 実際は、登記手続に関与した司法書士の職責や、厳格な登記手続きにより、真実の所有者である可能性は高いのですが、登記の法的位置づけはこのようになっています。

 ですから、現在の登記名義人がどのようにして権利を取得したのか、場合によっては更に前所有者の権利取得過程まで調査する必要も出てきます。

登記は必要か

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 不動産登記は、不動産の物理的現況を公示するための表示の登記と、不動産の権利関係を公示するための権利に関する登記に一応分けられます。(なお、表示の登記の専門職能として「土地家屋調査士」、権利に関する専門職能として「司法書士」があります。)

 表示の登記は原則として申請義務が課せられていますが、権利の登記に関しは、申請するか否かは権利者の自由です。自由ですが、間接的に強制され、不動産取引に登記は必須といえます。
 
 A名義の不動産をXが買取り、登記をしていない間に、AがYに二重に譲渡し、Yが登記をした場合、Xは売買代金を支払ったにもかかわらず、所有権を原則取得できません。

 この場合、Aが悪いのは明らかですが、XとYは同じ立場であり、先にXに売った段階で、所有権はXに移転し、無権利者Aから買ったYは所有権を取得しないとの考え方(民法の原則である意思主義によればそうなります)もあり得ますが、このような場合には、登記を旗振り役として判断する(対抗力、対抗要件)ことを政策的に採ったのです。そうしなければ、登記制度は利用されません。